鼻血(鼻出血)は、その名の通り、鼻(鼻腔)の中から出血することです。
子供の頃、突然の鼻血に驚いて、慌てて鼻にティッシュを詰めた、というような経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。いきなり鼻血が出ると誰でもびっくりしてしまうものですが、その多くは、鼻をいじってしまうなどの刺激が原因で起こる出血のため、簡単に血が止まるようであれば特に心配することはありません。しかし、出血がいつまでも止まらない場合や、特に理由もないのに鼻血がたびたび出るというような場合、何かの病気に伴って起こる「病気のサイン」である可能性もあるので、しっかりと症状を見極めることが大切です。
鼻血は、子供から大人まで誰にでも起こることがありますが、特に幼児期から小学校低学年にかけてのお子さんに多く見られる症状です。
お子さんの鼻血の多くは、鼻粘膜を刺激することで起こる「単純性鼻出血」と言われるもので、鼻の前方にある「キーゼルバッハ部位」というところからの出血です。
キーゼルバッハ部位は、鼻の入り口から約1㎝入ったところで、鼻の穴を左右に分けている「鼻中隔(びちゅうかく)」という壁の粘膜にあります。
この部分の粘膜はとても薄いのが特徴で、網目状に走っている血管の表面が浮き出ているため、ちょっとした刺激などでも傷が付き、出血してしまうことがあります。
出血は、ぽたぽたと少しずつ鼻の穴から垂れてくる場合や、勢いよくたくさん流れてくる場合があり、時には血液が喉に回って、口の中にまで流れ込んでくることもあります。
口に溜まった血液を誤って飲み込んでしまうと、血液が胃に入り、その刺激で吐き気を催すことがあるため、溜まった血液は、飲み込まずに口から吐き出すようにしましょう。
鼻血が出るおもな原因は以下のようなものがあります。
キーゼルバッハ部位の血管は細くてとてもデリケートなため、鼻のケガなどによる衝撃はもちろん、強く鼻をかむ、指で鼻をほじるなどの刺激や鼻粘膜の乾燥などでも簡単に切れてしまうことがあります。
また、普段から鼻をほじる癖のある人や、アレルギー性鼻炎などの炎症で鼻の中が痒い場合には、鼻内部に傷ができ、かさぶたになった傷が痒くてまたひっかいてしまう、というように出血を繰り返す場合もあります。
その他、ごくまれではありますが、鼻の腫瘍や全身性の病気などに伴って、鼻の奥から出血が起こる場合もあります。
少しの鼻血で、受診される方は少ないと思いますが、出血量が多い時などは、お医者さんに行くべきか迷うこともあると思います。
通常、鼻血が出た時は、まず椅子などに座り、うつむいた状態で小鼻を強くつまみ、10~15分間程度安静にしていれば止まることが多いです。
この方法で、すぐに出血が止まり、鼻血以外に気になる症状がないようであれば、ひとまず様子を見ても良いですが、以下のような症状がある場合は、大きなケガや病気が関係して出血している可能性があるので、すぐに医師の診察を受けるようにしましょう。
一般的に行われる鼻血のための検査というのはありませんが、医師が問診や内視鏡などで鼻の中の状態を確認し、詳しい検査が必要と判断した場合には、必要に応じて以下のような検査を行うことがあります。
医療機関では、軽症の場合は、軟膏を出血部分につけることで、止血を行います。また看護師から自宅で出た場合の出血の止め方の指導をします。
鼻血の量が多い・繰り返す場合、鼻血を止めるため、まずは鼻の中の出血した部位を特定し、止血剤を染み込ませたガーゼなどで圧迫する治療を行います。
鼻血を何度も繰り返している方や、激しい出血をしている方の場合には、電気メスを使った治療を行うこともあります。
当院では「バイポーラ」という電気メスを導入しており、キーゼルバッハの出血した部位を焼いてしまうことで、出血を止める治療を行っています。
(参考)鼻血治療のための機器「バイポーラ」
小さなお子さんは頻繁に鼻血を出すことがあるため、「どこか身体が悪いのでは?」と心配になる親御さんも多いと思いますが、そのほとんどは、指で鼻をほじるなどの「指性鼻出血」と言われるものなので、心配はありません。
ただし、アレルギー性鼻炎や鼻の入り口付近に湿疹や炎症(鼻前庭炎)があるお子さんの場合、鼻の中が痒くなり、いじってしまうことで鼻血が出やすくなっていることもありますので、元となる病気の治療をしっかりと行うことが大切です。
昔から「首の後ろや背中をたたくと良い」などと言われていますが、これは全くの迷信で、医学的な根拠はなく、むしろ安静を保つことが大切です。
同じように「上を向くと良い」というのも迷信で、上を向くと鼻血が口の中に逆流して飲み込んでしまう恐れがあるため、行わないようにしましょう。
とっさにやってしまいがちですが、鼻にティッシュを詰めると、乾いたティッシュが傷に貼りつき、取り出す時にせっかく固まっていた部分が再度はがれて、さらに出血してしまう場合があります。
出血が止まりにくい時は、柔らかいガーゼや脱脂綿にワセリンなどを塗って詰めると粘膜を傷付けず、スムーズに取り出すことができるのでおすすめです。
血が止まった後も、しばらくは出血しやすい状態なので、鼻をかむなどの動作は避け、安静を保つようにしましょう。
また、刺激となってしまうことがあるため、5~6時間程度は、運動や辛い食べ物やコーヒーなどは控えましょう。
現在の所、新型コロナウイルスと鼻血の関連性は指摘されていません。
突然の鼻血は誰でも驚くものですが、慌ててパニックになると血圧が上がって、ますます血が止まりにくくなってしまいます。
特に小さなお子さんは、血を見ると泣いてしまうことが多いので、周りの大人が落ち着いて声をかけるなどして安心させてあげることが大切です。
鼻血の多くは、心配のないものですが、出血の量や頻度が多い、鼻以外にも出血の兆候があるなど、ご自身で「何かおかしいな」と感じることがある場合には、なるべく早く医師に相談することをおすすめします。