お子さんに突然の嘔吐・下痢がみられたら、もしかしたら「ウイルス性胃腸炎」かもしれません。
ウイルス性胃腸炎は、よく「お腹の風邪」「嘔吐下痢症」とも呼ばれ、小児科では風邪の次に多い病気です。主に秋~春ごろに多く発生する感染症で、ウイルスが胃腸内に入り込んで感染することにより、胃腸症状を引き起こします。
原因となるウイルスには、ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルスなど様々あります。
病原体によって症状に多少違いがありますが、主に嘔吐・下痢・腹痛・発熱などの症状が現れます。
ウイルス性胃腸炎はヒトからヒトへうつる感染症であり、子どもだけでなく大人や高齢者も全年齢で感染する可能性があります。家庭内感染や保育園などで集団感染する場合もありますので、吐いたもの・下痢のついたおむつなど感染者のお世話(看病)をする際には、二次感染対策が必須となります。また、ノロウイルスでは加熱処理が不十分な汚染された食品(特にカキなど貝類)・水(氷)を摂取することによっても感染します。
ウイルス性胃腸炎は通常1~2週間ほどで自然に改善していきます。症状が強い場合には、症状に合わせた「対症療法」を行います。
ただし、ウイルス性胃腸炎は「上から下から出る」と表現されることがあるように、「脱水」にならないよう注意が必要です。特に乳幼児さんのロタウイルス感染は、重症化しやすいです。嘔吐が2日以上続く、下痢が数日続く、高熱が出る、ぐったりする、ミルクを飲まないなどの症状がみられたら、早めにご来院ください。
ウイルス性胃腸炎とは、冬~春先にかけて発生する、ウイルスが原因の胃腸炎の総称です。
原因となるウイルスは様々ありますが、中でも「ロタウイルス」「ノロウイルス」は有名です。これらのウイルスは感染力が非常に高く、体内に10~100個とわずかな量が入っただけで感染します。多くは自然回復しますが、抵抗力の弱いお子さんや高齢者などでは重症化・死亡する恐れもあります。
ウイルス性胃腸炎の主な症状は、次の通りです。
※原因ウイルスによって多少の違いがありますが、下痢はどのウイルスでも共通してみられます。
ウイルス性胃腸炎を起こす原因ウイルスの中で、特に注意したいのは次の2つです。
5歳までの世界中のほぼすべてのお子さんが、1度は感染するとされています。
2歳以下の感染では症状が強く出ることが多く、特に初めての感染では重症化することがあるウイルスとして有名です。日本ではロタウイルス胃腸炎で死亡することは稀ですが、乳幼児さんで入院が必要となる急性胃腸炎の半数はこのロタウイルスです。長期免疫が付かないため、再感染もありますが、回数や年齢が上がるにつれて、症状は軽くなる特徴があります。
※大人も感染しますが、ほとんど症状は出ません。
症状:発熱・嘔吐から始まり、クリーム色~白色の下痢(酸っぱいにおい)→水のような下痢となる
感染しやすい時期:冬~春
感染しやすい人:5歳くらいまでの乳幼児 ※ピークは生後6か月~2歳
しばしば「集団感染」が問題となるウイルス性胃腸炎です。
ウイルスに汚染された食品(特にカキなどの二枚貝)・水を介した「ウイルス性食中毒」の原因にもなるため、感染者の手指を介したヒト-ヒトへの感染なのか?食中毒なのか?の判別の付かないケースがあります。
※ウイルスに汚染されやすい二枚貝などは、中心部まで十分に加熱(85℃~90℃で90秒以上)してから、食べるようにしましょう。
症状:吐き気、嘔吐、下痢(数回~10回以上/1日)、腹痛、まれに発熱(微熱)が1~2日続く
※子どもでは嘔吐が多く、成人では下痢が多い。血便はない。
感染しやすい時期:秋~春
感染しやすい人:乳幼児・小学生~大人、高齢者までの全年齢層
ウイルス性胃腸炎では、嘔吐・下痢による「脱水症状」に注意が必要です。
特にお子さんは、大人と比べて体内の水分割合が多い上、水分調整機能が未熟なので、脱水になりやすい特徴があります。
以下のような症状が1つでもみられるときは、脱水状態の可能性が高いので、すみやかに医療機関を受診しましょう。
そのほか、脱水に伴うけいれん・ショック、脳症、腎不全、腸重積(腸が腸管にはまり込む病気)などの合併症を引き起こすことがあります。
脱水症状を防ぐためにも、小まめに水分補給をしましょう。嘔吐・下痢時の脱水予防には、ナトリウム・カリウムなどが含まれる経口補水液がオススメです。母乳やミルクが飲める場合には、無理に経口補水液に変更する必要はありません。
ウイルス性胃腸炎では、症状やご家族・保育園など周囲の感染状況などから、原因ウイルスを推定して総合的に診断します。なお、ウイルス性胃腸炎では、原因ウイルスが特定されなくても、治療方法や感染対策に違いはないので、心配ありません。
医師の判断により、診断の補助として「専用迅速検査」を行うことがあります。吐しゃ物(嘔吐した物)や便を用いて検査し、15分~20分程度で結果が判明します。ただし、一部のウイルスでは、感染していても陽性とならないケースがあります。
そのほか、遺伝子診断などでも確定診断が可能です。
ウイルス性胃腸炎には特効薬はありませんので、基本的には感染者さんの自己免疫力でウイルスを排出して、自然に治っていくのを待つことになります。
脱水を防ぐための水分補給や安静を中心に、症状に応じて整腸剤などの「対症療法」を行います。なお、下痢止めは、ウイルスの排出を滞らせ、病気の回復を妨げる可能性があるため、通常使用しません。
また、お子さんで症状が強い場合、少しの水分も受け付けなくなることがあるため、脱水症状になりやすい傾向があります。その場合には、医療機関で点滴等の対応が必要です。
嘔吐や下痢があるときは、腸の動きが悪いので吸収も悪く、やみくもに飲むことは逆効果となります。嘔吐・下痢のときは、電解質(ナトリウム・イオン)も一緒に排出されているため、ナトリウムなどを含まない麦茶・お茶・水では、脱水予防に向きません。
また、スポーツ飲料やイオン飲料には少量のナトリウム等が含まれていますが、ウイルス性胃腸炎のような特に脱水対策が必要なときには「経口補水液」の方が良いでしょう。
なお、経口補水液は、主に薬局などで販売されています。ドリンクタイプ・飲むゼリータイプが販売されていますが、おうちにあるもので作ることも可能です。
沸騰させた水1リットルに、塩小さじ1/2(約3g)、砂糖大さじ4と1/2(約40g)を混ぜます。さらに、レモンなど果汁を混ぜると、飲みやすくなります。
二次感染を防止するためには、適切な処理が必要です。ロタウイルスやノロウイルスなどはアルコールに抵抗性があるため、次亜塩素酸ナトリウムまたは塩素系漂白剤による消毒が有効です。
濃度の異なる消毒液を作って、用途に合わせて使用しましょう。
家庭用塩素系漂白剤(ハイターやブリーチなど)は、主に次亜塩素酸ナトリウム濃度5%~6%で生産されています。
なお、漂白剤の購入から時間が経過すると、若干濃度は薄まっていきます。購入から3年以上経ったものを消毒液に使用することは、おすすめできません。
使用するもの:空のペットボトル(1L)、ペットボトルのふた、家庭用塩素系漂白剤、水
※ペットボトルには「消毒液」と分かるようにして、お子さんなど誤飲に注意すること!
使い捨て手袋(2枚:2重にして使用)、使い捨てガウン(使い捨てエプロンでも可。洋服への飛び散りを防ぐため)、マスク、ゴミ袋2枚、キッチンペーパー(新聞紙・雑巾・厚紙でも可)、用途に合わせた消毒液(0.1%か0.02%)
(参考)ノロウイルス感染|東京都福祉保健局
https://idsc.tmiph.metro.tokyo.lg.jp/assets/diseases/gastro/pdf-file/p-familly.pdf
吐しゃ物・排泄物の付いた衣類は、そのままでは感染源となってしまうため、個別に洗う必要があります。洗濯をする手間を考えると、症状が強いときは捨てても良い服・シーツなど使い、汚れたら使い捨てにした方が楽です。
なお、洗濯できないような布団・カーペット・ソファーなどは、濡らした布を当てて2分程スチームアイロンをします。
ウイルス性胃腸炎は、法律上は出席停止となる病気として定められていません。しかし、嘔吐や下痢などの症状がある間はウイルス排出が多いことから、症状が治まって全身の状態が良くなってから、登園・登校すると良いでしょう。
なお、ウイルス性胃腸炎では、症状がなくなっても1か月程度、便からのウイルス排出があります。おむつの処理後やトイレ後・調理前などにはしっかりと手を洗いましょう。
胃腸炎の原因となるウイルスの中では、ロタウイルスにだけ予防するワクチンがあります。ワクチン接種により、ロタウイルス胃腸炎による入院リスクを約70~90%減らすことができたと報告されています。現在、日本ではロタウイルスワクチンは2種類の薬剤が認可されており、2020年10月から定期接種(薬剤により2回もしくは3回)となりました。いずれも経口ワクチン(飲むワクチン)です。
ただし、ロタウイルスの予防接種は1回目の接種を生後6週~生後2か月(生後14週6日)までに受けることが推奨されています。接種するには予約が必要となることが多いので、早めにスケジュールを立てて準備しましょう。当院でも接種可能です。分からないことがありましたら、お気軽にご相談ください。
また、感染対策の基本となるのが、「うがい」「手洗い」です。ウイルス性胃腸炎は感染力が強いため、おもちゃ・タオル・食器の共用などを避けましょう。
なお、胃腸炎の原因となるロタウイルスやノロウイルスには、アルコールは効きません。ドアノブなど共有部分の消毒には、次亜塩素酸ナトリウムを使うとよいでしょう。近年は、ロタウイルスなどノンエンベロープウイルスにも有効な「酸性アルコール消毒剤」が発売されています。
ウイルス性胃腸炎の原因となるウイルスには様々な型があることから、一度の感染では終生免疫は得られず、何度も感染します。ただし、ロタウイルスでは感染を繰り返すたびに、軽症化する傾向があります。大人での発症はあまりありません。
ご家族がウイルス性胃腸炎に感染したら、次のポイントに注意しましょう。
ロタウイルスやノロウイルスなどによる「ウイルス性胃腸炎」は冬~春にかけて多く発生します。主症状は嘔吐や下痢であり、人から人へうつる感染症です。ロタウイルス胃腸炎は、2歳以下のお子さんにとって脱水などの合併症を引き起こして入院が必要になることがある厄介な病気です。
しかし、ロタウイルスはワクチンによる予防が可能であり、2020年より定期接種に含まれるようになりました。初回接種は生後6週~14週6日までの接種推奨となっているため、早めのワクチン接種をおすすめします。一方で、ノロウイルスは胃腸炎だけでなく食中毒の原因にもなり、家庭内感染や施設入所者などによる集団感染がよく起こります。
ロタウイルスやノロウイルスの感染力は非常に強いので、汚物の適切な処理、手洗い・うがい、換気を徹底して行い、二次感染を防ぎましょう。