喘息(ぜんそく)は、「気管支喘息(きかんしぜんそく)」とも呼ばれ、空気の通り道(気道)が狭くなることによって、呼吸時にヒューヒュー・ゼーゼーするような音(喘鳴:ぜんめい)がして、激しく咳き込み呼吸が苦しくなる状態(発作)を繰り返します。
喘息の原因は一つではなく、体質などの「個体因子」と生活環境などの「環境因子」が複雑に絡み合うことで発症すると考えられています。
しかし、大人の喘息とは異なり、子どもの喘息(小児喘息)の約90%はアレルギーに起因して発症しているため、適切な治療やアレルゲン対策を行うことにより、大人になるまでに喘息が治ることが多いと報告されています*1。
*1(参考)気管支喘息 第3章(P.3)|厚労省
当院では、日本小児アレルギー学会による「小児喘息治療ガイドライン」に則って、治療を行っております。
喘息治療の最終目標は寛解すること(薬なし・症状なしの状態)ですが、まずは「症状が起こらないようにするための毎日の治療」がとても大切です。そして、発作が出たときには、「すみやかに気管支を広げるための治療」を行って、喘息をコントロールしていきます。
なお、3歳以下の乳幼児期のお子さんは、喘息以外の原因(ウイルス感染や風邪による気管支炎など)でもゼーゼーすることがあるため、1度ですぐに「喘息」と診断できません。
当院では、お子さんの症状と経過をしっかり診察した上で治療に繋げています。
お子さんの咳で心配な点がある方、「これって、喘息?」とご不安な方、一度ご相談ください。
喘息発作の元凶は、慢性的な気管支の炎症です。気管支の炎症が治まれば、刺激にも反応しにくくなり、発作は起きにくくなります。一方で発作を繰り返していると、気管支の炎症が治りにくくなるので、呼吸機能の低下に繋がります。
喘息患者さんの気管支は、様々な原因によって慢性的に炎症しています。
喘息症状が出ていないときも、気道(空気の通り道)が敏感状態になっているため、粘膜のむくみや損傷などによって気道が狭くなっています。
こうした状態の中で少しでも刺激が加わると、気道が過敏に反応してしまい、咳・痰が出るようになります。気道への刺激が重なると、より気道は狭くなってしまい、さらに息苦しくなって激しく咳き込む、呼吸するときにゼーゼー音(喘鳴)のする「喘息発作」を起こすようになります。
(図)健康な人と喘息の人との気管支の違い
出典:環境再生保全機構ERCA (エルカ)「気管支の状態」
喘息は、個人に起因する「個体因子」と日常生活に起因する「環境因子」が複雑に絡み合って発症していると考えられています。
上記のような危険因子のうち、喘息は特に「アレルギー」と密接な関りがあると知られています。
喘息は、アレルギーが原因となって引き起こされる「アトピー型喘息」とアレルギー以外が原因となる「非アトピー型喘息」の2つのタイプ(病型)に分けられます。
小児喘息の約90%は「アトピー型喘息」です。
私たちの体は、外からアレルゲン(菌やウイルスなど)などの異物が入ってくると、体を守るために「免疫」が働きます。 しかし、ときに免疫システムが異常反応(アレルギー反応)してしまうことがあり、体の様々な部分で炎症を起こします。
こうしたアレルギー反応が気道で起こっているのが、「喘息」です。
アトピー型喘息の発作を誘発する刺激(=アレルゲン)には、次のようなものがあります。
(図)アトピー型喘息の発作を引き起こす主なアレルゲン
アレルギーが原因ではない喘息のことです。大人の喘息(成人喘息)の約40%は原因不明の非アトピー型喘息です。
非アトピー型喘息の発症要因となる危険因子は、次の通りです。
小児喘息患者さんの60%が3歳まで、90%が6歳までに発症しています。しかし、大人の喘息と比べて、小児喘息は適切な治療や対策などを行うことにより、思春期頃までに約60~70%は治ります。
ただし、そのまま成人喘息に移行する、もしくは小児喘息が治った後ストレス等をきっかけに喘息が再発することも30%程度あるので、経過に注意が必要です。
喘息といっても、実は様々な症状がみられます。
次のような症状が続いている場合には、一度医療機関を受診することをおすすめします。
喘息が疑われる場合、詳しい問診はもちろん、喘息のような症状がみられる別の疾患ではないことを調べるため、必要に応じた様々な検査を行ってから総合的に診断します。
喘息は気管支の炎症を治さない限り、いつまでも発作が現れます。また、気管支の炎症が長引くと、気管支自体が硬くなって治療が難しくなる状態「リモデリング」に陥ってしまうので、症状がみられたら早めに治療や対策を始めることがポイントです。
これらの目標を達成するために、「薬物治療」「悪化因子への対策」「体力づくり」の3方面からアプローチします。
薬物治療では、「喘息を起こさないようにするための治療(長期的管理)」と「症状が出たときにすぐに気管支を広げる治療(発作時治療)」の両面から気道の炎症を抑えます。
お薬の選択は、年齢と喘息発作の程度・頻度など重症度から判断します。
喘息症状がないときも続けて行うことで、発作を予防します。効果実感に少し時間がかかりますが、根気よく続けましょう。発作回数の減少がみられたら、年齢を考慮して治療ステップ(薬の種類や回数)を下げていきます。
狭くなった気管支を一時的に広げる作用を持つお薬を使います。このお薬では、気管支の炎症を抑える効果はないので、この薬だけの使用では喘息は治りません。
炎症がある気道は、非常に敏感になっています。少しの刺激でも、喘息発作が起こる可能性があります。お薬で抑えるだけでなく、日常生活の中に潜む悪化因子をできるだけ排除するような心がけも大切です。
適度な運動をすると、心肺機能が高められ、基礎体力がアップします。さらに、バランスのとれた食事、十分な睡眠など規則正しい生活を送ることで、発作が起きにくい体となります。
現在の症状についてよく観察しておくと、診断に役立ちます。
また、すでに喘息を治療されている方は、日頃から喘息の症状、日常生活の状況、薬の使用状況、天気、ピークフロー値*2などを記録する「喘息日記」を付けておくと、状態の良し悪しを把握できるのでおすすめです。
*2ピークフロー値:呼吸機能の状態を示す値。自宅で息を吹きかけて呼吸機能を検査するピークフローメーターによって計測する。薬でコントロールできているのか?などが分かる
次のような様子が一つでも見られたら、発作の時の薬(気管支拡張薬)の吸入をして、すみやかに救急外来を受診してください。
体を動かして遊ぶことは、子どもの健やかな発育に必要不可欠です。
喘息があるからと、運動を制限する必要はなく、喘息をしっかりコントロールして、運動しても発作を起こさないように努めることが大切です。フィギュアスケートの羽生結弦選手なども喘息のコントロールをして、競技を続けています。
もし運動することで喘息症状が現れる「運動誘発喘息」であれば、日頃のコントロールが不十分な可能性があるので、治療の見直しが必要となります。医師に相談しましょう。
「喘息は治らない」と諦めないでください。子どもの喘息は早い時期に適切な治療とアレルギー対策などの悪化要因の回避を行うことにより、大人になるまでに治癒できる可能性があります。症状が出ていないときも、コツコツ治療を続けて喘息をコントロールしていくことが、将来につながります。当院では、患者さんとそのご家族に寄り添いながら、正しい診断に基づいた治療をご提供していきます。治療には根気が必要となりますが、一緒に頑張りましょう。