「風邪」は、赤ちゃんから大人まで、誰もがかかる最も身近な疾患で、1年に何度も風邪を引くという方も少なくありません。実は、風邪というのは一つの病気の名前ではなく、正式には「風邪症候群」と言い、ウイルス感染などが原因で、鼻や喉などの呼吸器に起きる急性炎症を総称したものです。
一般的な風邪であれば発症しても、1週間程度で自然に治ってしまうことが多いのですが、「風邪は万病のもと」とも言われるように、軽く見ていると思わぬ合併症を引き起こす場合もあるので、症状の変化に十分注意し、きちんと治すことが大切です。
風邪を引くと、鼻や喉などの呼吸器や全身にさまざまな症状が起こります。
患者さんにとってはどれもつらいものばかりなのですが、これらの症状は、私たちの体にもともと備わっている「免疫システム」の働きによるものであり、体に侵入してきたウイルスや細菌の増殖を阻止しようとして戦うことで、以下のような不快な症状が引き起こされます。
風邪は、鼻や喉に原因となる微生物が感染することで発症します。
そのうちの80~90%はウイルスによるもので、それ以外の残りがマイコプラズマやクラミジアなどの細菌による感染です。
風邪を引き起こすウイルスの中でも特に多いのは、「ライノウイルス」や「コロナウイルス」ですが、風邪の原因となるウイルスは200種類以上あると言われており、ウイルスの種類によって、発症の時期や現れる症状(鼻症状が強いものや発熱を伴うものなど)にはそれぞれ特徴があります。
また、一つのウイルスであってもたくさんの型がある上に、年々、変異していくことがあるため、私たちは、何度も繰り返して風邪を引くことがあるのです。
風邪のウイルスは多数あり、どのウイルスが原因なのかを特定するのが難しいケースも多いため、通常、ウイルス性の風邪と考えられる時は、問診や視診を行い、患者さんの症状から診断します。
ただし、患者さんの症状や季節、周囲の流行状況から、インフルエンザなど他の感染症が疑われる場合には、鑑別のため、簡易キットを使った検査を行います。
また、患者さんの容態や重症度、年齢などから風邪以外の病気の可能性がある場合も、必要に応じて追加の検査を行います。
風邪の治療には「内服薬による治療」と、鼻や喉に直接行う「局所療法」の二つの治療があります。
ウイルス性の風邪の場合、抗菌薬では効果がないため、対症療法がメインになります。
不快な症状を和らげ、体力の消耗を防ぐことで、しっかりと身体がウイルスと戦うことができるように、必要に応じて以下のような薬の処方を行います。
ただし、細菌性の風邪の疑いがあると医師が判断した場合や、風邪による体力の低下で細菌に二次感染している恐れがある場合などには、抗生物質を処方することもあります。
(参考)ネブライザー治療の様子
風邪もインフルエンザも喉の痛みや鼻水などの症状を伴い、ウイルス感染が原因で発症するという点は同じですが、インフルエンザは「インフルエンザウイルス」というウイルスに感染することによって発症するもので、治療法なども大きく異なるため、一般的な風邪とは別の病気として考えます。
鼻や喉など呼吸器の症状がメインで、全体的に症状が軽い風邪に比べ、インフルエンザは、38度を超える発熱のほか、強い関節痛や筋肉痛など、全身に激しい症状が出ることが多く、小さなお子さんや高齢の方などは重症化しやすいため、注意が必要です。
一般的な風邪の症状であり、水分と栄養がしっかり摂れ、日ごとに少しずつ症状が改善しているようであれば治療をしなくても自然に治ってしまう場合もあります。
しかし、小さなお子さんや高齢者、基礎疾患(ぜんそくなどの慢性呼吸器疾患、糖尿病、心疾患)を持っている方の場合は、症状が進行して重症化しやすいので早めに診察を受けるようにしましょう。
また、39℃を超えるような急な発熱がある時や、咳や鼻水などの症状が徐々に悪化するような時は、急性中耳炎など風邪以外の病気の可能性や、新たな細菌に二次感染を起こしている可能性もあるため、早めに医療機関を受診することをおすすめします。
最初は単なる軽い風邪であっても、症状の進行によっては、以下のような合併症を引き起こすことがあります。
特に小さなお子さんや高齢者など、身体の抵抗力が弱い方の場合、症状が進行しやすいので注意が必要です。
私達は日々、さまざまなウイルスや細菌に囲まれて生活をしています。
疲れや寝不足、ストレスなどで免疫力が低下している時は、体内にウイルスが侵入しやすくなるため、日頃から体調管理に気を付け、風邪を寄せ付けないように免疫力を高めておくことが大切です。
また、風邪は、引き始めにしっかりと対処することで、悪化させずに治すことが可能です。忙しいと、つい無理をしてしまいがちですが、風邪の初期症状を見逃さずに早めに休養を取るとともに、いつもと違う経過が見られるような時にはなるべく早く受診することを心掛けるようにしましょう。