耳の奥がこもり、詰まった感じがすることを「耳閉感(じへいかん)」といいます。
人によっては、「膜が張っているような感じ」「水が入った感じ」などと表現する場合もあります。
登山や飛行機の離陸時など、気圧の変化による一時的な耳閉感は誰にでも起こるもので、すぐに治ってしまうようであれば心配はありません。
しかし、詰まった感じが長く続いてすっきりしない場合や、一度治っても、たびたび耳閉感が再発するような場合には、耳の病気の可能性があります。
「耳閉感」を伴うおもな病気は?
耳は外耳、内耳、中耳の3つに分けられ、耳閉感は、外耳~内耳のどこに原因があっても起こります。また、鼻と耳をつなぐ耳管が原因で起こる場合もあります。
<外耳に起こる異常>
・外耳炎(がいじえん)
頻繁な耳かきなどで、外耳道に細かい傷ができ、そこから細菌感染が起こって炎症が起きる病気です。耳閉感、耳のかゆみ、痛み、耳漏(耳だれ)を伴う場合もあります。
・耳垢栓塞(じこうせんそく)
外耳道に耳垢(じこう:耳あか)が溜まり、固まってしまうのが原因です。
耳閉感、耳の異物感があり、耳鳴りや聴力の低下を伴うことがあります。
・外耳道異物(がいじどういぶつ)
何らかの理由で、外耳道に異物(虫、綿棒の先、髪の毛、ビーズなど)が入ってしまった状態です。耳閉感、耳の異物感があり、聴力低下を伴う場合もあります。
<中耳に起こる異常>
・滲出性中耳炎(しんしゅつせいちゅうじえん)
鼓膜の中と外の気圧の調整がうまくできず、中耳に「滲出液(しんしゅつえき)」という水が溜まってしまいます。耳管が短い小さなお子さんの発症が多いのが特徴で、耳閉感や聴力の低下、自分の声が響く、などの症状が起こります。
・好酸球性中耳炎(こうさんきゅうせいちゅうじえん)
血液中に、白血球の一つである「好酸球」が増えることが原因で、中耳に粘りのある液体が溜まります。喘息に関連して起きることが多く、耳閉感や聴力の低下を伴うことがあります。
・耳硬化症(じこうかしょう)
中耳にある「アブミ骨(内耳に音を伝える働きを持つ)」の動きが悪くなり、音が伝わりにくくなる病気です。両耳の耳閉感、耳鳴りなどの症状が現れ、少しずつ聴力が低下します。
<内耳に起こる異常>
・急性低音障害型感音難聴(きゅうせいていおんしょうがいがたかんおんなんちょう)
片耳もしくは両耳の低音だけが聞こえにくくなり、耳閉感、低い音の耳鳴り、めまい、自分の声が大きく響く、などの症状を伴います。
30~40代女性の発症が多く、ストレスや過労などをきっかけに発症します。通常は、数日~数週間で回復することが多いですが、長引く場合や繰り返す場合もあります。
・突発性難聴(とっぱつせいなんちょう)
ある日、なんの前触れもなく、突然片側の耳が聞こえなくなる病気です。
耳閉感、耳鳴り、めまい、聴覚過敏(周りの音を大きく感じる)を伴う場合もあります。
風邪やストレス、過労など体調不良をきっかけに発症するケースが多いです。
・メニエール病(めにえーるびょう)
内耳にリンパ液が溜まってしまう病気で、女性の発症が多く、ストレスや過労、睡眠不足などをきっかけに発症します。耳閉感、ぐるぐる回るような回転性のめまい、耳鳴り、難聴の発作を繰り返すのが特徴です。※めまいがなく、難聴だけの場合もあり
<耳管に起こる異常>
・耳管狭窄症(じかんきょうさくしょう)
風邪などで鼻や喉に炎症が起こり、耳と鼻をつないでいる耳管が腫れ、中耳内の空気圧の調整ができなくなる病気です。
耳閉感、自分の声が大きく響いて聞こえる、自分の呼吸音が耳に響く、などの症状があり、聴力の低下を伴う場合もあります。
・耳管開放症(じかんかいほうしょう)
耳管が緩み、うまく閉じられなくなる病気です。
女性に多く、おもにダイエットや妊娠、ストレス、加齢などが原因で発症します。
耳閉感、自分の声が大きく響いて聞こえる、自分の呼吸音が耳に響く、などの症状があります。頭を下げた時や横になった時に症状が和らぐのが特徴です。
耳閉感の原因を調べる診察と検査
耳閉感の原因がどこから来ているのか、また、聴力が低下していないかを調べるために、以下のような診察と検査を行います。
問診・視診
「聞こえ方の変化があったか」「風邪を引いていないか」「耳に異物が入らなかったか」「他に気になる症状はあるか」などを医師が詳しく聞き取り、顕微鏡や内視鏡を使って耳の中の状態を確認します。
標準純音聴力検査
どのくらい小さい音まで聞き取れるかを調べる検査です。ヘッドフォンを付け、ヘッドフォンから流れてくる音を正確に聞き取れるかを確認します。
ティンパノメトリー
外耳や中耳、鼓膜の響き具合を調べる検査です。空気の圧力を変化させながら、外耳、鼓膜、中耳の振動の状態を測定します。
耳閉感を伴う病気のおもな治療法
耳閉感を伴う病気の治療には以下のようなものがあります。
耳の異物を取り除く
顕微鏡で確認しながら、外耳道に溜まった耳垢や異物を慎重に取り除くことで耳閉感も解消します。
※耳の中は自分では見えづらく、外耳道や鼓膜を傷つけて炎症を起こす可能性もあるため、自分で行うのは避けましょう。
薬物療法
外耳炎や中耳炎など、耳に炎症が起きている場合は、炎症を抑えるため、抗菌薬や消炎剤などの内服を行います。
鼻の炎症からきている中耳炎や耳管狭窄症の場合は、鼻水の吸引や霧状の薬を鼻から吸い込むネブライザー治療も必要です。
耳管が開いたままになってしまう耳管開放症は、漢方薬や循環改善薬の内服や生理食塩水の点鼻が基本ですが、必要に応じ、特殊な絆創膏で鼓膜の動きを制限するテーピングや特殊なピンで耳管を塞ぐ治療を行う場合もあります。
また、内耳からくる難聴に対しては、循環改善薬、ビタミンB12、ステロイドの投与のほか、必要に応じて内耳のむくみをとる浸透圧利尿剤を使用します。(※突発性難聴は、治療が遅れると聴力が戻らない場合があるため、至急、治療が必要です。)
耳管通気(じかんつうき)
中耳炎や耳管狭窄症など、中耳内の気圧の調整ができなくなってしまっている時は、鼻からカテーテルという細い管を通して、中耳内の気圧を外気と同じにする治療を行います。
外科的手術
薬物療法だけでは治らない中耳炎の場合、鼓膜を切開して中に溜まった水を出す「鼓膜切開」や、鼓膜を切開して中の水を吸い出した後、外気との圧力を調整するためのチューブを入れる「鼓膜チューブ留置術」を行う場合があります。
また、骨に異常をきたす耳硬化症の場合、固くなったアブミ骨を摘出し、人工的なアブミ骨と置換する手術を行う場合もあります。
よくあるご質問
1)風邪を引いてから、耳の調子が悪く、こもった感じがします……。突発性難聴やメニエール病の可能性はありますか?
正確には検査をしてみないと分かりませんが、風邪を引いてから耳閉感が続いている場合は、耳管狭窄症や中耳炎の可能性が高いです。
風邪で何度も鼻をかんでいると、耳と鼻をつなぐ耳管に炎症が起き、鼓膜が中耳の中側に引き込まれてしまうことがあります。
耳鼻科で、「鼓膜が引き込まれていないか」「中耳に水(滲出液)が溜まっていないか」を確認することで診断できます。
それでも耳閉感が続く場合は、突発性難聴やメニエール病など、内耳が原因の可能性もあるため、聴力検査や鼓膜の状態を調べる検査を行います。
2)耳の詰まりがあり、めまいや耳鳴り、聞こえにくさがありますが、受診した方が良いですか?
「めまい、耳鳴り、難聴」の三大症状は、耳からくるめまいの典型的なもので、なかでも多いのはメニエール病です。
ストレスや疲れが溜まっている時や気圧の変化などに伴って発症し、耳閉感や耳鳴りが先に起こり、しばらくしてめまいが現れるケースが多いです。
また、ごくまれに、聞こえを司る神経に2~3mmの腫瘍ができる「聴神経腫瘍」でも同様の症状が出る場合があります。
いずれにしても耳鼻科での詳しい検査が必要ですので、まずは医師にご相談ください。
まとめ
耳閉感は、聴力と密接な関係があり、聴力低下のサインであることも少なくありません。
突発性難聴のように、治療が遅れると聴力が戻らなくなってしまうケースもあるため、いかに早く症状に気付き、治療を始められるかがカギになります。
耳閉感を伴う病気は、ストレスや疲れから起こる場合も多いので、日頃からストレスを溜めないように心がけるとともに、耳閉感が続く時は、早めに耳鼻科を受診しましょう。