プール熱はヘルパンギーナ・手足口病とともに「夏風邪」のひとつとして、主に夏に流行する「ウイルス感染症」です。塩素消毒不足のプールの水を介してヒトからヒトに感染が拡大するケースがあることから「プール熱」と呼ばれていますが、正式名は「咽頭結膜熱(いんとうけつまくねつ)」です。小学生までのお子さん(5歳以下が感染者の約60%)を中心に感染します。
プール熱の主な症状は、高熱(38℃~39℃)、喉の痛み(咽頭痛)、結膜炎です。通常の風邪と比べて、夏風邪の熱は長引く傾向にあり(5日程度)、喉の奥が赤く腫れて痛みます。さらに、目の充血・目ヤニ・涙目などの目の症状がみられ、最初は片目だけでも後からもう片方にも現れます。頭痛・吐き気・下痢などを伴うこともあります。
プール熱には特効薬がないので、解熱鎮痛剤や目薬など症状に応じた「対症療法」を中心に行います。通常1週間ほどで自然に改善していきますので、十分な睡眠と水分補給をして安静に過ごしてください。
ただし、プール熱では「熱性けいれん」、まれに「肺炎」などの合併症を起こすことがあります。ぐったりしている、息苦しそう、高熱が何日も続くなど、いつもと違う様子がみられる時はすぐに医療機関を受診しましょう。
プール熱とは?
プール熱の正式名は「咽頭結膜熱」であり、アデノウイルスが原因となって引き起こされる「ウイルス感染症」です。
保育園・幼稚園・小学生までのお子さんを中心に感染することから、ヘルパンギーナ・手足口病とともに「子供の3大夏風邪*1」のひとつと呼ばれています。
アデノウイルスは一年中みられるウイルスですが、暑さで食欲がなくなる、十分な睡眠が取りづらくなるなど体力が落ちやすい夏が流行のピークとなります。
*1夏風邪:梅雨~夏に流行するウイルス感染症の総称。一般的な風邪と比べて、高熱が3~5日と長引く傾向がある。
プール熱の原因
プール熱の原因となるウイルスは、アデノウイルスです。主にアデノウイルス3型がプール熱を引き起こすとされていますが、2型・4型・7型・11型など別の型の場合もあります。
ウイルス感染症は、一度感染するとそのウイルスに対して免疫ができるので、原則的に2度とかかりません。しかし、プール熱を引き起こす型は複数あるため、違うウイルスの型ならば、何度も感染する可能性があります。
プール熱の主な症状
プール熱の典型的な症状は、次の通りです。
ポイントは、「高熱と咽頭痛と目の症状の3点セット」です。
ただし、目の症状は遅れて現れるケースもあります。
- 高熱(38℃以上)
→突然発熱し、3~7日程度続く。 - 喉の奥の赤みと強い痛み
→喉の痛みが強いことによって、食欲・水分を摂りにくくなるので脱水症状に注意。 - 結膜炎
→目の充血、目の痛み、目ヤニ、まぶしく感じる、涙が出やすくなるなどの症状。片目から始まり、遅れてもう片方にも同じ症状が現れることが多い。
そのほか、腹痛・下痢・頭痛・食欲不振、首の後ろのリンパ節の腫れと圧痛(押すと痛みがある)が現れることがあります。生後14日以内の新生児が感染すると、重症化する場合がありますので、特に注意が必要です。
病気の経過が良いプール熱ですが、高熱に伴う「熱性けいれん」、まれに髄膜炎、脳炎、肺炎などの合併症が起こるので、けいれんする、高熱が続く、元気がないなど「いつもと違う様子」がみられたら、すみやかにご受診ください。
また、プール熱はお子さんの病気のイメージがあるかもしれませんが、体力が落ちているときには大人も感染します。大人が感染した場合は、お子さんと比べて強い症状が出る、罹患期間が長引くなどの傾向があります。
多くは感染したお子さんからの二次感染なので、お子さんがプール熱の診断を受けた場合には、うがい手洗いを徹底して、タオル類・食器類の共用は避けるようにしましょう。
プール熱の期間と感染経路
- 潜伏期間
約5~7日 - 感染力
強い ※急性期が最も強く、発症3~4週間程度は便からのウイルス排出に注意 - 感染経路
飛沫感染……感染者から飛んだ唾液・分泌物を鼻・口などから吸いこみ感染
接触感染……菌の付いたタオル・食器・ドアノブ・手すりなどを触る、菌の付いた食品から感染
※プールの水が塩素消毒不足で汚染されている場合、結膜への直接侵入。 - 感染しやすい時期
一年を通して感染するが、ピークは6月~8月。 - 感染しやすい年齢
12歳以下 ※5歳以下が感染者の約60%。
プール熱の合併症
プール熱は、感染者の自己免疫力によって自然に回復していくことがほとんどです。
しかし、次のような合併症を引き起こす場合があります。
いつもと異なる様子がみられるときには、すみやかに小児救急外来を受診することをおすすめします。
熱性けいれん
生後半年~5歳くらいまでのお子さんの約10人に1人の割合で起こる、高熱(38℃以上で急に熱が上がったとき)に伴う、5分未満の短いけいれんです。
主な症状は、突然意識を失う、白目になる、一点を見つめるなどの後に、体や手足をこわばらせて、ピクピクと震えます。その後は意識を戻すか、そのまま寝てしまいます。
熱性けいれんが起こった際には、「けいれんしていた時間」「体温」「けいれん時の様子(片側だけけいれんしていないか?など)」を確認してください。衝撃的な光景に驚き、よく覚えていないケースがあるので、スマートフォンなどで様子を撮影しておくこともオススメです。また、初めて熱性けいれんを起こした場合には、念のためすぐに受診するとよいです。
<熱性けいれんは脳に影響する?>
熱性けいれんは、脳に影響を与えません。初めて熱性けいれんを見た方は様子に驚いてパニックになる方も少なくありませんが、熱性けいれんは、いわば未熟な脳の回路が急激な体温上昇によってショートしてしまった状態です。長く感じますが、多くは5分程度で治まるので心配ありません。
また、熱性けいれんになるお子さんの7割は1度きりの発生です。2回以上起こす子も3割いますが、多くは小学校入るくらいになると起こさなくなります。3回以上起こすことがあれば、けいれんの予防薬の処方を検討します。
無菌性髄膜炎
まれですが、脳や脊髄を包んでいる膜に炎症が起こる合併症です。
怖そうな名前に反して、ほとんどは後遺症もなく回復していきます。
強い頭痛、嘔吐、発熱が1~2日続きます。
特別な治療法はなく、頭痛や発熱には解熱鎮痛剤、嘔吐によって水分が摂れていなければ点滴による水分補給などの対症療法を行います。
脳症
ごくまれに起こる合併症です。
けいれん・意識障害(意識がもうろうとする・反応がないなど)・嘔吐がみられます。
プール熱の検査・診断
アデノウイルス感染が疑われる場合には、専用の迅速検査キットにて診断します。(当院でも検査可能です。)
インフルエンザ検査のように鼻からではなく、綿棒で喉をこするだけで簡単に調べることができるので、小さなお子さんでも可能です。結果は10分~15分程度で判明します。
ただし、症状(高熱・喉の痛み・結膜炎)と月齢・年齢、流行状況、病気の経過などの特徴から、総合的に診断することがあります。
そのほか、遺伝子診断やウイルス分離検査などでも確定診断が可能です。
プール熱の治療
プール熱には特効薬はないので、症状に対する対症療法となります。発熱や喉の痛みなどには解熱鎮痛剤・うがい薬、結膜炎症状にはステロイド・抗生剤の点眼薬などを処方することがあります。
プール熱は1~2週間程度で自然に回復していきますが、まれに合併症を起こすことがあるため、経過を注意深く観察して、自宅でゆっくり休みましょう。
また、高熱と喉の痛みで食欲がなくなることがあるので、脱水症状に注意が必要です。できるだけ薄味で軟らかいもの・口当たりの良いものなど、水分を多く与えてください。
よくあるご質問
プール熱に感染したら、保育園・幼稚園・学校は出席停止になる?
プール熱は、学校安全法で「第二種伝染病」と定められています。主要症状(発熱・喉の痛み・結膜炎)がなくなってから2日を経過するまで出席停止措置が取られます。
※医師により伝染の恐れがないと認められる場合には、この限りではありません。
発熱や咽頭痛は5日程度で改善していきます。つらい症状は緩和するようお薬でサポートしますが、基本的には自己免疫力でウイルスを退治することになりますので、栄養と休息を十分にとりましょう。
(参考)学校、幼稚園、保育所において予防すべき感染症の解説(P.18)|日本小児科学会
https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/yobo_kansensho_20200522.pdf.pdf
なお、大人の感染では仕事の出勤停止の法律はありませんが、お子さんと比べて症状が強く出て長引く傾向があります。さらに、感染拡大の防止観点からお子さん同様に急性期症状がみられるうちは、ゆっくり療養することをおすすめします。
プール熱と似ている病気はありますか?
現在「アデノウイルス」には多数のウイルス型が報告されているため、プール熱以外にも型によって感染性胃腸炎、出血性膀胱炎など色々な疾患が引き起こされます。
中でもプール熱と同じような症状が現れる病気には、「アデノウイルス感染症」「流行性角結膜炎(はやり目)」があります。
「プール熱(咽頭結膜熱)」では、感染症法によって次の2つの基準をすべて満たすものと定められています。
①発熱・咽頭発赤(喉の赤み)
②結膜充血
※ただし、基準を全て満たしていなくても、症状・流行状況などから医師の判断でプール熱が疑われ、迅速検査等でプール熱と診断されることもあります。
プール熱を予防する方法はありますか?
現在、プール熱には有効なワクチンや発症予防薬はありませんが、次のことに注意すると良いでしょう。
- 流行シーズン(梅雨~夏)には、流水と石けんでしっかり手洗いを行う、うがいをする。
- 感染者とタオルや食器の共有を避けるなど、密接な接触を控える。
- プールではゴーグル(水中メガネ)を使用することが望ましい。また、プール前後にはシャワーを浴び、うがいをする。
なお、発症1か月程度、便からウイルスが排出されるため、おむつの適切な処理はもちろん、トイレ後・おむつ替え後は必ず石けんで手を洗い、しっかり流水で流しましょう。
プール熱にはアルコール消毒は有効ですか?
プール熱の原因ウイルスである「アデノウイルス」は、ノンエンベロープウイルスに分類されるウイルスのため、一般的なアルコール消毒に強い抵抗性を持っています。
そのため、接触感染対策の基本は石けん・流水による「手洗い」です。
近年はアデノウイルスのようなノンエンベロープウイルスにも効果を発揮するような弱酸性タイプの手指用アルコール消毒液が発売されています
また、おもちゃや食器類の消毒には、次亜塩素酸ナトリウム(ミルトンやピジョン哺乳びん除菌料など)を薄めた消毒液が推奨されています。
※次亜塩素酸ナトリウムは手指など人体への消毒には使用できません。
プール熱にかかったら、家庭で気を付けたいことは何ですか?
風邪のときと同じような点に注意しましょう。
- 全身状態をよく観察する
顔色や意識状態、おしっこがでているかなど、よく観察してください。 - 水分を摂らせる
喉の痛みで食事や水分を摂れなくなると、脱水症状になる可能性があります。
飲み込みやすく薄味なものは、刺激が少なくオススメです。
例)子供用イオン飲料、麦茶、牛乳、冷ましたスープ、ゼリー、プリン、冷ましたおじや・おかゆ、お豆腐など下痢がなければ、アイスクリームなどもOKです。
喉の痛みがあるときは、オレンジジュースや温かいものはNGです。
どうしても水分が取れない場合には、点滴等の対応をさせていただきますので、当院までご連絡ください。 - お風呂は熱が下がって、元気が出てきてから
高熱が出ているときは、入浴は避けましょう。解熱して元気が出たら、入浴OKです。
ただし、回復しても2週間程度はウイルス排出がありますので、二次感染に注意が必要です。 - けいれんしたとき・ぐったりしているときは、すぐに受診を
「意識(反応)がぼんやりする・ぐったりする」「けいれんした」「水分を摂らない」「吐き気・頭痛が強い」「咳が激しい」など、全身症状が悪くなったときは早めに医療機関に相談してください。
まとめ
プール熱は「咽頭結膜熱」とも呼ばれ、名前の通り、喉の痛み・結膜炎・発熱の3つの症状が現れるウイルス感染症です。感染経路は他のウイルス感染症と同じように飛沫感染や接触感染となりますが、塩素消毒が不十分なプールの水を介して感染することもあるため「プール熱」と呼ばれています。プール熱は小学生以下のお子さんの間で毎年夏に流行する「3大夏風邪」のひとつであり、通常1週間程度で自然に回復していきます。しかし、高熱と喉の痛みで食欲が落ちやすくなるので、脱水症状に注意が必要です。さらに、まれに合併症が起こりますので、病気の経過をよく観察して、いつもと違う様子がみられれば、早めに医療機関を受診してください。
また、大人が感染した場合にはお子さんと比べて、症状が重く出やすい傾向があります。感染予防には、基本的な感染対策(手洗い・うがいの徹底、タオル・食器類の共用NG)が有効です。