葛湯と聞くとあまり聞き慣れないと思いますが、「葛根湯(かっこんとう)」は多くの方がご存知の漢方薬ではないでしょうか。葛根湯は、解熱鎮痛の効果があり、熱のある風邪、筋肉のこわばりに効果があります。この葛根湯にも使われているのが、今回のテーマである「葛」です。
葛とは?
クズの正式名は「かんねんかずら」で、マメ科クズ属の植物です。秋の七草のひとつで、日本で昔から親しまれてきた和製ハーブです。
そのクズの根を砕いてデンプン質を取り出して作ったものです。根を細かく切断して水に浸しておくと、下の方にデンプンが溜まっていきます。その後、何度も水を入れ替え沈殿を繰り返す工程を経て、デンプンから不純物を取り除いて乾燥させます。繰り返すことで、純白のデンプンがとれます。
身近な葛といえば、和菓子や洋菓子のお菓子でとろみ付けの材料として使われています。ゼラチンや寒天とは違う舌触り滑らかな食感を楽しむことができます。代表的なお菓子は葛きり・葛もち・葛饅頭・葛羊羹などがあります。葛のデンプンのみで作られた「本葛」は生産量が少ないため、とても貴重で高価です。
葛は生産量が少なく、精製に手間がかかることから片栗粉と比べると10倍以上の価格です。葛粉自体はスーパーに置いてある事も多いですが、ジャガイモやサツマイモを混合させたものが多く、葛粉100%でないこともあります。葛粉100%のものを購入したい場合は、裏面の原材料部分をきちんと確認して、ネット通販や健康食品のお店で購入しましょう。
このような症状の方は葛湯が必要かも…
まずはご自身やご家族・周りの方に下記のような症状がないかを確認しましょう。
□疲労感:ストレスを感じた時や夜に悪化、ひどくなると朝なかなか動けない
□精神不安定:落ち着きがない、興奮状態、上の空、気が散ってしまう、我慢が出来ない
□消化器異常:食欲不振、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛
□疲れやすい、集中力がない
□イライラが続く、感情を抑えられない
□気分が塞がってしまう
□欲求過多:塩分、砂糖、カフェイン、スパイスなどを欲する
□動悸、過呼吸(パニック発作)がある
□顔色が悪い
□悪寒もしくは冷や汗がある
□夜なかなか寝ることができない
□夜中にトイレで起きてしまう
□夕方になってくると体力がなくなりやる気がなくなってしまう
□PMS(月経前症候群)
□皮膚の炎症
□血流改善をしたい方:冷え性、肩こりでお悩みの方など
□胃の調子が悪くなることがよくある
□ついつい食べ過ぎてしまう、肥満を防ぎたい方
□骨を強化したい
□更年期障害でお悩みの方
なぜ葛が身体にいいか
葛湯は冒頭に記載したように「葛根湯」があるように昔から風邪の時に飲むといいとされ、重宝されてきました。なぜ風邪の時に良いかと言うと、葛には体を温める効果や解熱発汗作用があり、風邪の引き始めに飲むと効果的だと言われているからです。また、葛に含まれる「でんぷん」は消化・吸収が良く、整腸作用があるので、胃腸が弱っている時でも安心して飲むことが出来ます。
普段の食事で使うことはほとんどないので、片栗粉、コーンスターチと何が違うのと思われる方もいらっしゃると思いますが、実は全く異なり葛にはイソフラボンとサポニンが豊富に含まれており、身体にとって嬉しい効能があります。
イソフラボン
イソフラボンは、マメ科の植物に含まれているポリフェノールの一種です。最近では、イソフラボンが女性の身体に良い効能があると知られ豆乳や大豆製品を摂取する方が多いのではないしょうか?生活習慣やストレスによって増えすぎた活性酸素を抑え、生活習慣病の予防や改善に役立つといわれている成分です。
※ポリフェノール:植物の苦味、渋味、色素の成分となっている化合物の総称で、自然界に5000種類以上存在しているといわれている栄養素です
※活性酸素:普通の酸素に比べ、著しく反応性が増すことで強い酸化力をもった酸素を表します。紫外線やストレスなどにより体内で過剰に発生すると、脂質やたんぱく質、DNAなどに影響し、老化などの原因になるとされます
〈効果例〉
・更年期障害の症状を改善する
・骨粗しょう症を予防する
・美肌効果
・生活習慣病の予防・改善効果
・前立腺ガンの予防
サポニン
植物の根、葉、茎などに広く含まれている配糖体の一種で、コレステロールを除去したり、体内で血栓をつくり動脈硬化の原因となる過酸化脂質の生成を抑制する効果があると言われています。サポニンは、水に溶けると石けんのような発泡作用を持つため、昔から石けんなどに使用されていました。サポニンは水と油の両方に溶ける性質があり、サポニンには脂質を溶かす働きがあります。
〈効果例〉
・肥満を予防する
・コレステロール値を下げる
・血流を改善する
・免疫力を高める
・肝機能を高める
・咳や痰を抑制する
胃腸の健康維持
葛に含まれているサポニンには血液中のコレステロールや脂質を運んで血流を改善する効果があると言われています。そのため葛は腸の中をきれいにしてくれるお掃除屋さんの働きがあります。腸壁にやさしく付着して宿便を剥がし、腸内の血流を促してくれる効果があると言われています。風邪の時や胃腸が弱っている時などに葛湯や葛根湯が疲れるのにはそういった理由があるからです。
また、腸だけでなく肝機能を高める効果もあるとも昔から言われています。もともと二日酔いに効果があるとされてしましたが、近年の研究で、肝臓のダメージを示す数値の改善や、アルコール依存症の予防にも役立つという研究も報告されています。
さらに、ウイルスなどから身体を守る「ナチュラルキラー細胞」を活性化させ、免疫力を上げる力をサポートします。免疫力を上げることにより、ウイルスや細菌感染への抵抗力を高めて、健康的な身体作りにも役立ちます。
※ナチュラルキラー細胞
リンパ球の一種で、体内でウイルスに感染した細胞などを排除してくれる働きがあります。体内を巡回して、がん細胞を見つけ出し攻撃もしてくれたりします
女性に嬉しい効果
葛に含まれるイソフラボンは女性ホルモンのエストロゲンと似た働きをするため、女性ホルモンの補助、精神の安定に作用し、更年期や月経前のつらい症状を和らげると言われています。
※エストロゲン
女性らしい身体作りを助けるホルモンです。思春期においては乳房の成長や子宮・膣の発育などを促すとともに、身長や体重の増加に役立ちます。女性ならではの身体のラインになるのもエストロゲンの影響です
エストロゲンの減少を補うことで、肌荒れ、イライラ、肩こりなどの改善にも役立つと言われています。また、葛に含まれているサポニンには脂肪の吸収を抑える効果が期待できると言われており、無理なくダイエットなどにも活用できます。
葛湯は1杯飲むだけでもご飯などの炭水化物よりも瞬発的なエネルギー源になるため、満足感が得られ、食べ過ぎを防いだり、空腹感を和らげることができます。温かい葛湯を飲むことで身体を温め、血流の流れをよくしてくれます。食事の前や小腹が空いた時などに飲むことで余分な摂取カロリーを抑えられます。夕方になると疲れて動けないという方は、しょうがやココアなどを混ぜて一息つくと少し体力が戻るかもしれません。また、ツルッと飲めてしまうので、お年寄りの方や(葛湯に少し味をつけてあげれば)お子さんへお薬を飲む時などにも向いています。
ただし、イソフラボンの1日の摂取量は70mg〜75mgが良いとされていますので摂り過ぎないように気をつけましょう。
葛湯の作り方
まず、当院でおすすめする葛粉は下記です。インターネットで販売しているので気になった方はお試しください。
販売元:株式会社ムソー
商品名:ムソー 無双本葛100%粉末
特徴:イモデンプンを含まず、本葛(南九州産)100%でできています
粉末になっているので水で溶けやすいです(熱湯の場合だまになってしまいます)
葛湯として飲む場合、間食として飲むことがおすすめです。15〜30分置きに一口ずつ飲むと空腹感がなくなります。ペース配分がとても大切になってくるので、ちびちび飲んで行くことが重要です。
白湯のようにお湯と葛だけで飲むのも良いですが、少し味が欲しいなと思ったり、お子さんに飲ませるときには下記に記載しましたレシピを参考にしてみてください。温かい飲み物は、身体の冷えを和らげホッとした気分にさせてくれるので夏の冷房疲れにもおすすめです。
【ダシ葛スープ】
材料:葛粉 大さじ1、(出汁ページで紹介した)スープスープ 大さじ1、水 適量、熱湯 200ml〜300ml
作り方:
①葛粉をぬるま湯で混ぜ合わせる
②熱湯で葛が透明になるまでよく混ぜ、スープスープを入れる
【葛ココア】
材料:葛粉 小さじ1、ココア 小さじ1、三温糖(もしくは甜菜糖) 小さじ1、水120ml
作り方:
①耐熱カップに水30mlと分量分の葛粉、ココア、三温糖を加え、葛粉をつぶしながら混ぜます
②少しずつ残りの水を加えてさらに混ぜ合わせたら、電子レンジ600wで1分加熱する
③加熱後、一度レンジから取り出しさらにかき混ぜ、再び600w30秒加熱する
【葛トマトスープ】
材料::葛粉 小さじ1、トマトジュース 120ml、水 小さじ1、塩・胡椒 適量
作り方:
①葛粉と水をよく混ぜ合わせておく
②トマトジュースを鍋に入れて一煮立ちさせたら、火を弱めて①を少しずつ加えながらかき混ぜる
③とろみがついたら塩・胡椒で味付け
まとめ
手足の冷えはもちろん、全身の冷えで悩まれている方は女性だけでなく男性にもいらっしゃるのではないでしょうか?身体の冷えは腸に届き、お腹の痛みや精神的な症状に、繋がると言われています。体調が悪くなった時やダイエットする時だけに食生活を変えるのではなく、いつもの食生活の中で少しいいものを取り入れるだけで、身体の調子が良くなることもあります。
葛は食欲がない時でもサラッと食べられる魅力的な食材です。大人の方だけでなく、赤ちゃんの離乳食や飲み込みが難しい方などにもおすすめです。身体を温めて免疫力のある身体作りを心がけましょう!