慢性副鼻腔炎は、粘りのある黄色い鼻水や鼻づまりが3ヶ月以上続く病気で、発症すると副鼻腔に膿が溜まることが多いことから、「蓄膿症(ちくのうしょう)」と呼ばれることもあります。
風邪などをきっかけに発症する急性副鼻腔炎が治りきらずに慢性化するケースが多いですが、その他にもアレルギーやむし歯、喘息、カビ(真菌)など、さまざまな原因で発症することがあります。
慢性副鼻腔炎の症状は?
副鼻腔は、鼻の奥からつながり、頬やおでこにかけて広がる空洞のことです。
左右対称に上顎洞(じょうがくどう)、篩骨洞(しこつどう)、前頭洞(ぜんとうどう)、蝶形骨洞(ちょうけいこつどう)という4対の空洞があります。
このうちのどこかに炎症が起き、症状が3ヶ月以上経過したものが慢性副鼻腔炎であり、発症すると以下のような症状を伴うようになります。
- 粘りのある黄色い鼻水や鼻づまり
- 頭痛や頭重感、倦怠感
- 後鼻漏(こうびろう:排出できない鼻水が喉に落ちて絡みつき、咳が出る)
- 嗅覚障害(食事の味やにおいが分からない)
- 口臭
- 鼻茸(はなたけ:鼻内部の粘膜の一部が突起状に膨らんだもの)
慢性副鼻腔炎の原因は?
慢性副鼻腔炎を発症するおもな原因には以下のようなものがあります。
急性副鼻腔炎の炎症が長期化
急性副鼻腔炎がきちんと治りきらなかった場合、もしくは繰り返し急性副鼻腔炎にかかることで、副鼻腔の炎症が慢性化してしまう。
アレルギー性鼻炎
アレルギー性鼻炎の場合、鼻粘膜が炎症で日常的に腫れていることが多いため、鼻腔と副鼻腔をつなぐ道(自然口)が詰まりやすい。
むし歯や歯周病の放置
上の奥歯のむし歯や歯周病を放置しているうちに、上あごの歯の根っこ近くにある「上顎洞」に感染が広がってしまう。
カビ(真菌)によるもの
真菌(カビ)が原因で起こる慢性副鼻腔炎で、通常の副鼻腔炎より治りにくい。
原因となるアスペルギルス、ムコール、カンジダなどの真菌は、もともと体に存在しているものだが、抵抗力の弱い高齢者のほか、治療薬や病気で免疫力が低下している人の場合、副鼻腔炎を発症することがある。
慢性副鼻腔炎の検査とは?
慢性副鼻腔炎の診断には、以下のような検査を行います。
問診・視診
医師による症状の聞き取りのほか、「鼻鏡(びきょう)」という鼻の中を見る器具で鼻腔内の状態を調べ、炎症の具合や鼻茸の有無などを確認します。併せて、先端にカメラが付いた細い内視鏡検査を行います。
副鼻腔CT
鼻内部の状態を詳しく調べるため、「副鼻腔CT」を行います。
副鼻腔の構造はとても複雑なため、眉間の奥にある篩骨洞や蝶形骨洞に起きた炎症は、レントゲンでは正確な診断が難しい場合があります。
副鼻腔CTは、骨や粘膜の状態を鮮明に映し出すことができるので、副鼻腔の炎症や嗅覚障害の有無などを確認することができる上、真菌性副鼻腔炎の判別にも有効です。
※副鼻腔CTの検査が必要な場合、近隣の連携病院をご紹介させていただきます。
慢性副鼻腔炎の治療は?
慢性副鼻腔炎の治療は以下のようなものがあります。
局所療法
吸引機で鼻腔や副鼻腔に溜まった膿をきれいに取り除いた後、ミスト状にした少量のステロイドや抗生剤などを鼻から吸い込む「ネブライザー治療」を行います。
薬物療法(マクロライド療法など)
少量のマクロライド系抗生物質(クラリスロマイシン、エリスロマイシンなど)を長期間(3ヶ月程度)服用する治療を行います。
通常、抗生物質は、細菌感染を抑えるために使われますが、マクロライド療法では、「粘液が過剰に作られないようにする」「アレルギー反応に関係の深いサイトカインの分泌を抑制する」など、まったく別の目的で使われます。
抗生物質を長期服用することになりますが、薬の量は通常の半分に抑えて使うため、身体への負担や耐性菌の出現などの心配はありません。
なお、患者さんの症状に応じて、粘膜の炎症を抑える薬や、粘りのある鼻水を改善する薬、アレルギー性鼻炎の治療薬などを併用する場合もあります。
手術療法
何度も再発を繰り返す場合や、鼻茸がたくさんある場合など、薬物療法だけでは改善しない慢性副鼻腔炎には手術を行います。
炎症のある粘膜や鼻茸を取り除くほか、鼻腔と副鼻腔をつなぐ自然口を広げ、通りを良くする手術などがあります。
従来の手術は、切開が必要な大がかりなものでしたが、現在は、内視鏡を使うため、患者さんの身体への負担は少なくなりました。
当院では慢性副鼻腔炎の手術を行うことができないため、近隣の連携病院へご紹介しております。
よくあるご質問
1)急性副鼻腔炎と慢性副鼻腔炎の違いは何ですか?
通常、1ヶ月未満で治るものを「急性副鼻腔炎」、3ヶ月以上かかるものを「慢性副鼻腔炎」と呼んでいます。
急性副鼻腔炎は、発熱や頭痛、顔面痛などの症状が強いのに対し、慢性副鼻腔炎は、比較的症状が軽い場合が多いですが、治療には長い時間がかかるのが特徴です。
2)なぜ鼻茸ができるのでしょうか?
炎症が長引き、鼻腔や副鼻腔の腫れた粘膜の上にさらに新しい炎症が起きることで鼻茸ができます。
悪性化(ガン)することはありませんが、鼻茸が大きくなり、空気の通り道を塞いでしまうと鼻づまりは悪化し、後鼻漏や嗅覚障害、頭痛などもひどくなります。
3)なぜ歯のトラブルで慢性副鼻腔炎になるのですか?
上あごの奥歯の根本は、上顎洞のすぐ近くにまで達しているため、上の奥歯のむし歯
や歯周病などを放置したままにしていると、上顎洞内にまで感染が広がり、慢性副鼻
腔炎を発症する可能性があります。
最近では歯のインプラント治療で発症するケースもあります。
4)最近、新型の慢性副鼻腔炎が増えていると聞いたのですが?
近年、気管支喘息や中耳炎を合併して発症する「好酸球性副鼻腔炎(こうさんきゅうせいふくびくうえん)」という慢性副鼻腔炎が増えています。
成人以降に見られる慢性副鼻腔炎で、発症すると鼻の粘膜に「好酸球(こうさんきゅう)」という細胞が増えることから「好酸球性副鼻腔炎」と呼ばれています。
詳しい発症原因は不明ですが、従来の副鼻腔炎の場合、発症しても好酸球が増えることはないため、好酸球性副鼻腔炎は、従来型とは全く別のメカニズムで発症すると考えられています。
好酸球性副鼻腔炎の特徴は、早いうちから両側の鼻の中に鼻茸が多発することです。鼻づまりがひどく、鼻呼吸がほとんどできなくなるため、息苦しさが続いて、嗅覚障害も伴います。
通常のマクロライド療法では効果がなく、手術をしてもすぐに再発することから、中等症・重症の好酸球副鼻腔炎は、国の難病指定を受けています。
治療には、ステロイドの内服が効果的ですが、副作用などの問題から長期的な使用は難しく、内服を止めると、風邪などをきっかけに再び症状は悪化します。
嬉しいニュースとして、2020年から「鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎」を対象に、「デュピクセント®」という、これまでとは全く違うメカニズムの薬剤による治療が可能になりました。そのため、従来の治療では効果が得られず、症状のコントロールが難しかった好酸球性副鼻腔炎についても、症状の改善が期待されています。
デュピクセント®はとても高価な薬ですが、難病指定の認定基準を満たしている場合には治療費の助成を受けることも可能です。詳しくはお問い合わせください。
≪参考≫ サノフィ株式会社 デュピクセント®を使用される鼻茸を伴う慢性副鼻腔炎患者さんへ
5)慢性副鼻腔炎の治療中に風邪を引いてしまいました……。
慢性副鼻腔炎の治療中に風邪を引くと、鼻水の状態が悪くなり、頭痛や発熱などを伴うこともあります。
症状によっては抗生物質などによる治療が必要になる場合もあるので、風邪を引いてしまった時は、早めに医師にご相談ください。
また、完治した後も、再度、風邪を引くと再発してしまうことがあるので、日頃から気を付けて風邪を引かないようにしましょう。
まとめ
慢性的な鼻づまりは、患者さんにとって非常に不快なもので、集中力の低下につながるばかりか、「よく眠れない」「食べ物がおいしく感じない」など、生活の質(QOL)を大きく下げてしまいます。
また、鼻が通らないと、どうしても口呼吸になるため、乾燥して喉の痛みが出やすくなり、風邪にかかるリスクも高まります。
たかが鼻づまりと甘く見ずに、鼻づまりや粘りのある鼻水、頭重感、においを感じないなどの症状が続く場合には、放置せず、早めに耳鼻科を受診することが大切です。