概要
マイコプラズマ肺炎は、「マイコプラズマ・ニューモニエ」という、とても小さな細菌によって起こる肺炎です。この細菌は他の細菌と違い、細胞の外側にある壁(細胞壁)を持っていません。そのため、形が変わりやすく、通常の抗菌薬が効きにくいという特徴があります。さらに、マイコプラズマ肺炎は、咳やくしゃみによる飛沫感染、または感染者の鼻水や唾液が付着した物に触れることによる接触感染で人から人へと広がります。特に、5歳以上の子供から大人まで幅広い年齢層で発症し、そのため、学校や家庭内での集団感染も起こりやすい病気です。
症状
マイコプラズマ肺炎の症状は、他の肺炎と比べて特徴的なものがいくつかあります。まず最初は、発熱、全身倦怠感、頭痛、喉の痛み、咳など、風邪とよく似た症状が出ます。咳は最初は乾いた咳が多いですが、その後、次第にひどくなり、熱が下がった後も3~4週間続くこともあります。また小さな子供の場合には、大人では見られない鼻水や鼻詰まりなどの上気道の症状がよく見られることも特徴です。
特徴
- 異形肺炎
肺の奥深くにある「間質」と呼ばれる部分に炎症が起こるのが特徴です。そのため、肺胞と呼ばれる部分にはあまり分泌物が出ないため、聴診器で聞いても異常な音が聞こえにくく、咳も痰の少ない乾いた咳になることが多いです。 - レントゲン(X線)写真
間質と呼ばれる部分に影が濃く映り、その影が部分的に集中しているのが特徴です。 - 血液検査
炎症の程度を示す血液検査の数値は、通常の範囲内か、少し高いくらいです。
原因
マイコプラズマ肺炎の原因は、マイコプラズマ・ニューモニエという細菌への感染です。この細菌は、感染者の咳やくしゃみによって空気中に飛び散った飛沫を吸い込むことで感染する「飛沫感染」、または感染者の鼻水や唾液が付着した物に触れることで感染する「接触感染」によって人から人へと広がります。特に、家族内や学校など、人が集まる場所で感染が広がりやすいです。
診断
マイコプラズマ肺炎の診断は、医師が症状についての問診を行い、診察し、胸部のレントゲン(X線)写真や血液検査(抗体検査を含む)、抗原検査を使って診断します。マイコプラズマ・ニューモニエの感染を確定するためには、以下の検査が行われることが多いです。
- 病原体検出
細菌を直接検出する方法です。- 分離培養
マイコプラズマ・ニューモニエを培養して検出する方法ですが、結果が出るまでに約2週間かかるため、実際にはあまり行われません。 - 迅速抗原検査
マイコプラズマ・ニューモニエの抗原を検出する方法です。インフルエンザや新型コロナウイルスの抗原検査と違い、検出感度が80%程度と低く、陰性だから大丈夫と言い難い検査になっているため、複合的な判断が必要です。 - 核酸増幅法 (PCR法、LAMP法など)
マイコプラズマ・ニューモニエの遺伝子を検出する方法です。PCR法は精度が高いですが、一般の医療機関では行われていません。LAMP法は、PCR法と比べて迅速に結果が得られるため、有用な検査ですが、当院では施行できません。
- 分離培養
- 抗体検査(当院はこちらの検査を行なっています)
マイコプラズマ・ニューモニエに対する抗体を検出する方法です。当院では、1回の指先からの採血で、IgM抗体検査を確認します。結果が迅速に判明しますが、陽性が長期間(約2か月)続くこともあるため、陽性の場合は既感染か否かの判断を慎重に行う必要があります。
治療
マイコプラズマ肺炎の治療には、抗菌薬が用いられます。マイコプラズマ肺炎には、細胞の壁を壊すタイプの薬(βラクタム系抗菌薬)は効きません。そのため、マイコプラズマ肺炎には、主に以下の抗菌薬が用いられます。
- マクロライド系薬
マイコプラズマ肺炎の第一選択薬です。しかし、近年ではマクロライド系薬に耐性を持つマイコプラズマが増えてきており、治療が難しくなっているケースもあります。日本では、2011~2012年には80%程度と非常に高い耐性率でしたが、その後は低下し、2018年以降は20%前後で推移しています。これは、2010年からニューキノロン系薬(トスフロキサシン)が小児でも使えるようになったため、マクロライド系薬の使用が減ったことが大きな要因と考えられています。一方、小児用ニューキノロン系薬のない中国や韓国では現在もマイコプラズマのマクロライド耐性率70~100%と非常に高い耐性率が続いています。 - ニューキノロン系薬
マクロライド系薬が無効な場合や、重症例に用いられます。小児にも使用できる薬剤があります。 - テトラサイクリン系薬
8歳以上であれば使用できますが、歯の変色などの副作用があるため、注意が必要です。
抗菌薬による治療は、医師の指示に従って、決められた期間きちんと服用することが大切です。途中で服用をやめてしまうと、再発したり、耐性菌が出現する可能性があります。
小児呼吸器感染症診療ガイドライン2022では、治療の第一選択として、マクロライド系薬としており、それでも発熱が続く場合は、その他抗生剤を使用するように記載されています。
重症化した場合や、合併症がある場合には、ステロイド薬の投与が行われることもあります。
予防
マイコプラズマ肺炎は、飛沫感染や接触感染によって広がるため、以下の予防策が有効です。マイコプラズマは潜伏期間が2〜3週間と長いため、症状が軽快しても注意が必要です。
- マスクの着用
咳やくしゃみによる飛沫の拡散を防ぎます。 - 手洗い・うがいの徹底
手や喉に付着したウイルスを洗い流します。 - 人混みを避ける
感染者との接触機会を減らします。
まとめ
マイコプラズマ肺炎は、子供から大人まで幅広い年齢層で発症する肺炎です。特に、咳が長く続いたり、熱が下がったあとも体のだるさが続く場合は、マイコプラズマ肺炎の可能性があります。そのため、疑わしいときは早めに病院で診てもらうことが大切です。また、日頃からしっかり予防することが大切です。実際、2020年以降はCOVID-19流行による感染対策の徹底のためか、マイコプラズマ肺炎の症例数は減少していました。しかし、感染対策の緩和により、感染歴のない子どもが増加し、学校などによる集団感染および大きな流行が懸念されています。
参考文献
尾内一信. (2023). 肺炎マイコプラズマ感染症. 小児内科, 55(増刊号), 川崎医療福祉大学医療福祉学部子ども医療福祉学科.
大石智洋. (2023). 肺炎マイコプラズマ,肺炎クラミジア. 小児内科, 55(4), 特集「新しい時代の小児感染症」.
平田惟子, 中西祐斗, 三上真充, 秦大資. (2022). 胸水を用いたLAMP法で診断した重症マイコプラズマ肺炎. 小児内科, 54(6).